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委員会

第9回 関西のインフラ強化を進める会 開催日:令和元年.12.4(水) 開催場所:OMMグラン101・102

議事
1. 基調説明・意見交換
「都市交通事業と沿線まちづくり ~空港アクセスの強化と都市再生~」
上村 正美 氏(阪急電鉄株式会社 常務取締役
都市交通事業本部副本部長(交通プロジェクト推進担当))
2. 基調説明・意見交換
「次世代交通システムと今後の交通計画」
山田 忠史 氏(京都大学経営管理大学院 教授)
3. 「2050 生活パターンとインフラの使い方」
鈴木 直司 氏(建設コンサルタンツ協会 近畿支部 道路研究会)

1. 基調説明・意見交換「都市交通事業と沿線まちづくり
            ~空港アクセスの強化と都市再生~」講演資料(3.67MB)

上村 正美 氏(阪急電鉄株式会社 常務取締役 都市交通事業本部副本部長(交通プロジェクト推進担当))

はじめに

阪急電鉄の上村です。よろしくお願いいたします。

本日のテーマは、「都市交通事業と沿線まちづくり」ですが、少し一般論なところもありますので、そのうちの空港アクセスの強化と都市再生に絞ってお話しさせていただきます。

本日の内容は大きく4つに分かれています。

1点目は現在の状況である「人口減少時代の沿線のまちづくり」の考え方。2点目は、一般論として、これから完成を目指していく万博・IRに対する戦略。メインは3点目の「2050年を目指した沿線まちづくりとネットワーク」ということで、現在、阪急電鉄が取り組んでいる内容について報告させていただき、4点目として「阪急阪神HDグループの目指すもの」ということで、歴史と物語を少しお話させていただきます。

1.人口減少時代の沿線のまちづくり

1点目の「人口減少時代の沿線まちづくり」ですが、ご承知のとおり人口減少時代の今、これをどうしていくかが、阪急阪神HDグループの大きな課題となっています。

2017年に阪急阪神HDグループが掲げた「長期ビジョン2025」では、スローガンを「深める沿線 広げるフィールド」と掲げております。「深める沿線」の対象は阪急阪神沿線を表しますが、その中で戦略①から④までを掲げています。このうち、本日の内容に関係するものは戦略①の「ストック型事業」です。この「ストック型事業」では、梅田や沿線で阪急阪神HDグループとして事業を進め、「関西で圧倒的No.1の沿線の実現」を目指す、ということを我々のミッションとしています。私も長年、都市交通事業及び不動産事業で沿線開発等に携わっており、これを今回の1つの大きなテーマとして掲げています。

この戦略①で挙げた「関西で圧倒的No.1の沿線の実現」に向けては、重点施策として「梅田エリアの価値向上」、「鉄道新線による交通ネットワーク(インフラ)の整備」、そして「沿線主要拠点での再開発・リノベーション」の3点を掲げています。

人口が減少していく中で、最近よく言われているのは、「定住人口」あるいは「交流人口」をどのように増加させていくかです。「定住人口」は沿線のお客様にどう住んでいただくか、これは行政機関と一緒に取り組んでいかなくてはいけませんし、「交流人口」は企業や大学の誘致、都市部における観光施策、インバウンドをどう取り込んでいくかが重要なポイントとなります。

そして最近、総務省等において「関係人口」というキーワードがよく使われていますが、これは地域イメージやブランドにどれだけ係わっている方がいるか、というものであり、これも重要な要素であるといえます。さらには、「外出人口」という概念があります。これは、バリアフリー化や地域コミュニティ等の創設によって外出頻度を高めていくことにより、全体的なマーケットを広げていこうというものです。人口減少時代の沿線まちづくりにおける増加を図るべきものとして、「外出人口」を加えています。

「定住人口」、「交流人口」、「交流人口」、「外出人口」の概念を図化しました。総務省HPより引用とありますが、引用したのはベースとなる図の部分で、左側に現状の地域との関わりと外出頻度という要素を加えました。

この「定住人口」、「交流人口」に加え、図の中央部行き来する方「風の人」や、地域内にルーツがある方、こういった「関係人口」のマトリックスに加え、もう一つの軸として人々の外出頻度を高めていくことにより、マーケットの規模が広がるのではないかと考えています。そうすることで、人口減少社会でも、工夫次第で我々の各種事業にもプラスになってくるのではないでしょうか。

2.関西の戦略~万博、IRを経て

次に、関西の戦略として考えられるのは、新大阪を中心として日本全国、それからアジアに拡がっていくネットワークをつくっていくことです。図は「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会会議」の資料から引用させていただきましたが、このような概念で人・情報をネットワーク化していかなくてはいけないと考えています。

空港については、関西3空港(関西国際、大阪国際、神戸)において、2018年度には5千万人近い方が利用されています。この関西3空港を一体経営しながら、より有効に活用していくことが必要といえます。

人口減少社会の中で、これから関西をいかに成長させていくかを考えるうえで、空港を介して外国とのネットワークを広げていくことが1つの大きなキーになると思います。

まず空港と高規格道路(高速道路)の関係について、近年、高速道路ネットワークは非常に充実してきたと言えますが、高速道路による新大阪地域へのアクセスは、今後の課題であると感じています。新大阪は、今後リニア中央新幹線や北陸新幹線が整備され、ハブの役割を果たす地域になります。新大阪周辺で大規模に高速道路を整備することは難しいところもありますが、将来的に、高速道路ネットワークに新大阪という要素を加える必要があるのではないでしょうか。

次に、空港と鉄道の関係についてですが、空港アクセスのための鉄道ネットワークとして、新大阪から関西国際空港へのアクセスルートとしての「なにわ筋線」および「なにわ筋連絡線」・「新大阪連絡線」、梅田から大阪国際空港へのアクセスルートとしての「大阪空港線」、さらに神戸空港への結節など、都市圏と空港を結ぶ鉄道ネットワークをどう広げていくかが、非常に大きなポイントになります。

さらに、これからは端末交通の強化も重要であると考えています。先ほど挙げた「外出頻度を高める」ための施策として、このフィジカルな空間のまちづくりとインフラだけではなく、ストレスなく外出ができること、移動しやすさの向上という面で、サイバー空間上でのMaaSが重要になってくるのではないかと思います。

「定住人口」・「交流人口」・「関係人口」・「外出人口」を増やすために、空港との結節、新大阪との結節、そしてサイバー空間におけるMaaS、これらを組み合わせて外出頻度を高めていくことで、人口減少社会においても、マーケットが大きく広がる可能性を秘めており、それが我々の事業にとってもプラスとなり、ひいては関西全体にとってもプラスになるのではないかと思っています。

3.2050年を目指した沿線まちづくりとネットワーク

ここからが、今日の本題である「2050年を目指した沿線のまちづくりとネットワーク」となりますが、これらのネットワークをいかにして作り上げていくかが、これからの大きなテーマになると思います。

「なにわ筋線」が今年事業化されたなか、弊社では、北梅田から十三を結ぶ「なにわ筋連絡線」、さらに十三から新大阪を結ぶ「新大阪連絡線」、そして、1,620万人の方が利用する大阪国際空港へ梅田から直結する「大阪空港線」を計画しています。神戸方面については、2004年の近畿地方交通審議会答申第8号の中で取り上げていただいた、「阪急神戸線と神戸市交西神山手線の相互直通運転」の計画がありますが、これに加えて神戸空港へのアクセスをどうするかも今後考えていかなくてはならないと考えています。

新大阪から十三にかけては、東海道新幹線が新大阪まで整備されることを機に、我々は1961年に「新大阪連絡線」として免許を取得し、一部で用地買収も進めていましたが、かれこれ50年以上実現できていませんでした。今般、「なにわ筋線」の事業化とともに、新大阪・十三と関西空港を結ぶ「新大阪連絡線」・「なにわ筋連絡線」の事業化を目指し、当社として1歩踏み出したところです。

もう1つは「大阪空港線」です。こちらは宝塚線から分岐し、地下構造で大阪国際空港に至る路線です。この路線についてはルート等も含めまだ確定したものはなく、用地や地元との協議等も済ませていませんが、現時点での計画は、路線延長として約4km、大阪国際空港から大阪梅田まで乗り換えなしで、所要時間は約15分を想定しています。現状、公共交通機関で大阪国際空港に行く場合、阪急宝塚線で蛍池駅からモノレールに乗り換えるか、阪神高速を使ってリムジンバスで行くことになりますが、いずれの手段であっても、乗り換えや事故、渋滞リスクがあるため、「大阪空港線」の整備により、定時性を確保し、かつ乗り換えなしで梅田から大阪国際空港に行けることとなり、利便性が大きく高まると考えています。

空港のさらなる活用という面では、リニア中央新幹線開業後など、飛行機の利用環境などの周辺状況に変化が生じるタイミングを契機に、大阪国際空港の再国際化などといった可能性も考えられます。「大阪空港線」の整備にあたっては、空港周辺にある遊休地等を活用しながらのまちづくりを進めるなど、様々な可能性を秘めていると考えています。

もう1点が「阪急神戸線と神戸市交西神山手線の相互直通運転」です。阪急神戸線の神戸三宮駅を地下化し、神戸市営地下鉄との相互直通運転を検討しています。西神山手線については、2020年度に北神急行電鉄と神戸市営地下鉄で一体的に経営していくことを先般プレス発表させていただきましたが、これらの動きも考慮して、引き続き検討を進めて行きたいと考えています。

新大阪を中心とした空港アクセスの概念を図にまとめました。ポイントは十三駅をハブとし、関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港および新大阪とつなげることです。これにより、今後リニア中央新幹線や北陸新幹線が整備される新大阪と3空港が接続され、関西のポテンシャルがさらに上がり、また、十三や新大阪を中心としたエリアの価値も上がってくるのではないかと考えています。

新大阪駅周辺地域は、2018年に都市再生緊急整備地域の候補として、十三・新大阪・淡路が対象地域となりました。2カ年かけて検討していくということで、現在検討会が開催されています。特に新大阪はスーパーメガリージョンの一角として、十三は、空港アクセスネットワークのハブとしての機能が期待できますので、いずれも価値がかなり上がってくるのではないかと考えています。当社で検討中の「新大阪連絡線」は、この十三と新大阪を結ぶ路線であり、それを中心としてまちづくりをどう考えていくかが、今後の課題であると認識しています。

これは、新大阪周辺地域の、将来的な姿を提案したもので、(一社)日本プロジェクト産業協議会で作成されました。私は、これぐらいの規模でダイナミックに考える必要があるのではないかと思っています。この構想のポイントは、現在、新御堂筋はかなり渋滞をおこしており、そういった道路ネットワークをどうしていくかということが大事になります。また淀川左岸線が整備されても、どこかでボトルネックができないように、新淀川第2大橋や新御堂筋バイパス線、駅周辺にバスターミナルを整備するなどといった発想をして、道路・鉄道を強化するとともに交通結節を図っていくことが、今後必要なのではないでしょうか。

もう1つの課題は国土強靱化です。2018年、2019年と自然災害による橋梁流失など問題が相次ぎました。当社でも阪急神戸線に下神崎川橋梁があり、堤防を切り欠くような形で軌道が引かれています。増水時や高潮時には設置された防潮鉄扉を閉鎖して堤防の高さを維持しているというのが現状です。

2018年の台風21号接近時にも鉄扉が閉められ、阪急神戸線の運行を停止しました。神崎川は、おそらく日本で唯一鉄扉が残る橋梁になるのではないかと思っており、今後このような状況を解消する必要があると考えています。国土強靱化という概念に加え、神崎川駅周辺が前述の都市再生緊急整備地域の候補に近いということから、同地域の防災性を強化していかなければならないと思います。

阪神なんば線の淀川橋梁は、現在改築事業を進めているところでして、図の下側に示している整備後のイメージの通り、橋梁改築によって桁下高さが約7m高くなります。

4.阪急阪神HDグループの目指すもの

最後に、阪急・阪神に関する人物にまつわる物語をご紹介させていただきます。皆さんご承知のとおり、阪急電鉄創業者は小林一三ですが、阪神電鉄の技師長に三崎省三という人物がいました。三崎省三は「標準軌高速鉄道の父」と言っても過言ではない方です。

三崎は京都大学の電気を卒業し、アメリカで電気技術を学んだのちに、日本初の電車である京都市電の電車を設計しました。その後、阪神電気鉄道の設立に技師長として関わりましたが、ポイントは、線路の軌間を狭軌(1,067mm)ではなく、標準軌(1,435mm)としたことです。当時、標準軌の鉄道は、大師電気鉄道(現在の京急大師線)で既に実用化されていたものの、あまりに粗末なものだったと三崎自身が語っています。

阪神電鉄は当初、最高速度時速13㎞で、大阪~神戸間が5時間以上かかるという計画となっていました。これは当時、鉄道国有法のもと鉄道はどんどん国有化されていく一方、民営鉄道は軌道条例(現在の軌道法)でしか認められなかったために最高速度時速13kmとせざるを得なかったというものです。

三崎は、これではダメだということで、標準軌で最高速度時速80kmの高速鉄道を目指しました。この時、「軌道条例の併用軌道はほんの一部の短い区間だけで、あとは専用軌道で良い」という判断をし、三崎がたてた計画を実現させたのが、当時、逓信次官であり初代土木学会会長であった古市公威氏でした。この方が、まさに標準軌都市間高速鉄道の歴史を作ってくれたことになります。

軌道条例に基づく特許出願で、「線路のどこかが道路を走っていれば、軌道法として認める」という拡大解釈をされたことによって、軌道法のもとで時速80kmの高速走行が実現できました。現在の都市間高速鉄道ができたのは、このお2人が道筋を開いてくれたからだと考えています。

その結果として、次に出てきた小林一三が箕面有馬電気軌道を設立する時に、同じように軌道法のもとで時速80kmまで出せる高速鉄道を作ったとのことです。小林一三は、鉄道ビジネスモデルを確立した存在として世間からも認識されていますが、古市公威氏・三崎省三氏により、今の標準軌による高速鉄道という概念ができたので、我々にとってはこの2人が非常に重要な人物であったと思っています。

その流れの中、2006年10月に阪急・阪神が経営統合しましたが、我々はこの2人のDNAを引き継ぎながら、これからも「安心・快適」、そして「夢・感動」というまちづくりを進め、都市交通事業を基軸として不動産事業やエンタテインメント事業を推進していきたいと思っています。

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